電動キックボードの法改正を考える
マニアックな移動手段だったキックボード。動力を持たないから自転車の延長というか子どものおもちゃ程度の扱いだったが、電動化され公道走行が可能と、どうして急に規制緩和されることとなったのか。その背景には自動車工業会とか、小型自動車(オートレース業界)とは全く違う業界団体が動いたとされたとしか考えられない。大胆な規制緩和によって業界が活性化するという必然性が語られていた時期、産業競争力強化法に基づき、都市部や観光地などでの簡易なレンタル事業の、シェアリングサービスでの電動キックボードの運用案が一部の事業者から提案され、21年4月から実証実験がスタートしたことから急遽風向きが変わったのだ。
最高15km/hと原動機付き自転車の半分という制限速度なのに、信号では二段階右折(青信号の直進で一旦停止して方向転換してもう一度青信号の直進)ではなく、右折レーンで一発右折。これは自転車では許されない。ウインカーやブレーキライトといった一部の保安部品の装備も不要。普通免許を持っていれば運転できるトラクターと同じ「小型特殊自動車免許」というカテゴリーなので、基本的に道交法の理解は必須である。ただヘルメットが義務の原付とは違って不要というのには違和感があった。都心をつるんで走って問題になったゴーカートも同じ区分だったが、四輪であることも含めて車道を占有するのが「邪魔だ」とはいえ歩行者からも自動車からも認知しやすかったといえよう。
ところが2022年4月の道路交通法改正で、新たに最高速度20km/h以下の電動キックボードを対象に運転免許不要とする法案が可決成立したことで、状況はわけがわからないことに。「特定小型原動機付自転車」という新たなカテゴリーができ、運転が可能なのは16才以上でしかも免許不要、ヘルメット着用は努力義務、自転車レーン走行可、そして歩道も時速6km/hと減速すれば走れる、というある種のオールマイティな乗り物ができあがった。そしてそれが2023年7月1日から認められるのだ。
ナンバープレートの登録と装着、自賠責保険への加入などは義務付けられる。ライトや方向指示などの保安部品類はシェアリングサービス用車両などと同じだが、従来の「小型特殊自動車免許」のキックボードを購入した場合、時速6km/hでの走行時に緑色のランプが点灯する部品をつけなければならない。つらつらかくとよくわからないので整理すると、
・原付免許(最高速度30km/h)
・小型限定普通二輪免許(最高速度60km/h)
・小型特殊免許(最高速度15km/h)
・運転免許不要(最高速度20km/h)
という4つの免許のカテゴリーの似たような動力付きのバイクが自転車の他にも走ることになり、免許を持たないけれとナンバープレートが付いた電動キックボードが歩道を走ることになるのだ。自賠責があるからといっても、歩道での人身事故なら任意保険に入らなければとても補償できないはず。しかも16歳以上が運転できるといっても年齢確認ができるのか。さらに危険な運転を車道じゃなくて取り締まれるのか。店先から歩道に飛び出す子供たちや、視野が狭い高齢者が事故にあわないのか。そもそもこの事態をどれくらいの歩行者が把握しているのか。ロジックの後付けが甚だしく、あまりに拙速な決定に、妥当な交通安全策が再考されることを切望する。
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